結婚とは、強くなって弱くなれること
頭痛と油断
12月上旬。先週までの温かさは嘘のように消え去り、京都を旅する私は常に凍えていました。ユニクロを探しては防寒服を追加したり、時折カフェで休憩したりと身体に気を使ってはいたのですが、帰り際に突然体調を崩してしまったのです。
ライトアップを見ていた時、徐々に締め付けられていた頭の痛みが急に激しくなりました。元々頭痛持ちではあったのですが、大体は仕事場で現れる症状。今日はカバンを変えてることもあって薬は持ち合わせていません。
完全に油断していました。
ただただ苦痛に耐える帰路
まだお夕飯は食べていなかったのですが、本日の旅はここで終わりとなりました。しかし急激に強くなった頭痛の勢いに耐えられず、改札を通ろうにもICカードを出せない、ホームで転ぶなど人間としての機能を失いかけていました。
普段は座ることのない優先席に座り、寝ようにも寝れずにただただ痛みに耐えて家を目指す。次第に身体は歯をカチカチと鳴らせて震え始め、何も考えられなくなっていました。
「この意識が家までもつのだろうか」と本当に不安になったのです。
無言の支え
そんな時、隣で私のことを支えてくれている人がいました。奥さん、です。自分で立つことさえ十分にできない私のために柱を探したり、荷物を代わりに持ってくれる。
そして何より嬉しかったのが「声をかけてくれないこと」でした。「え?」と思われるかも知れませんが、私は頭痛が酷いと何も考えられず、喋ることもできないのです。
普通の人ならきっと心配して「大丈夫?」と終始気遣ってくれると思います。だけどそれに応えることが、私にとっては苦痛なのです。それをわかって無言でただただ支えてくれる。それはとても嬉しいことでした。
温まるスープ
乗り換えを経て遂に家に到着。スウェットに着替えて歯を磨き、薬を飲んで崩れるように布団に入ります。今日は風呂には入らないことにしました。
私が布団に入って目を閉じた頃、奥さんは震える私のために湯たんぽを出してきたり、飲み間違えていた薬の数に気づいて一つ足してくれたりしました。そうして段々と気持ちが落ち着いてきたのです。
朦朧とする意識の中、トントンという音が一定のリズムで聞こえてきます。「ああ、そういえばご飯を食べてなかったな。奥さんは何を食べるんだろう」と考えていると、寝室のドアが開いて奥さんがスープを渡してくれました。
身体を温めるためのネギとショウガのスープ。健康食だけどおいしくて、奥さんの分も少し貰って食べました。
家族がいるから
学生時代はこうして突然体調が悪くなり、限界の状態で家に着くことが時々ありました。そうしたとき、お母さんが食べやすい卵粥やおうどんを作ってくれたのを思い出します。その度にこの家に生まれてよかったと思ったものです。
就職してから一年間は一人暮らしをしていました。その間は体調を崩すことなく乗り切りましたが、必要以上に身体に気をつかい、絶対にはめは外しませんでした。
就職二年目。結婚して奥さんと暮らし始めます。それから約8ヵ月程経ったこの日、体調を崩してしまいました。元々寒いのは苦手なのに、旅したいがために少しムリしてしまったのかも知れません。
結婚すると、弱くなれる
だけどこうして少し無茶なことができるようになること。倒れた時に支えてくれる人がいることはとても幸せなことなんだと思いました。結婚すると弱くなるのかなと思う時もあったのですが、弱くなることができるのかなと思い直しました。
私は弱い人間です。自分一人で生きていける程強くありません。家族のために頑張らなければと強くなる日もあるけれど、こうして弱くなれる日もあることが、結婚による変化の一つなのかもしれません。
ネギとショウガのスープを飲み終えて、「奥さんと結婚してよかった」と言いました。「旦那さんと結婚してよかった」という声が聞こえました。カップを置き、そのまま布団の中で眠りにつきます。頬には感謝の涙がつたっていました。